【江東 この街あの人】ふか川『一穂(いっすい)』 店主 大山 敏博さん

東京を代表する郷土食「深川めし」を各地に広めるために奔走!
義理人情に篤い江戸っ子の代表。

子どもの頃に食べたおふくろの味「深川めし」の思い出。

【江東 この街あの人】ふか川『一穂(いっすい)』 店主 大山 敏博さん 大山さんも子どもの頃によく食べた「ぶっかけ深川めし」
大山さんも子どもの頃によく食べた「ぶっかけ深川めし」

大山さんが子どもの頃の深川はどんな街だったのでしょうか。

 明治27年に創業した木場『松葉鮨』の生まれなんです。子どもの頃の思い出といえば、すし屋は一年の中で正月が一番忙しくて、両親と一緒に過ごしたことがないことかな。材木問屋の街だった木場内は大晦日まで営業していて、正月は元旦から出前も多いんです。1日200件以上はあったね。
 親父とおじいさんは秋が深まってくると、仕事の合間に落ちハゼ釣りで忙しくて、一緒に遊んだこともないね。ハゼは干して正月用の雑煮の出汁や、はらわたを抜いて昆布巻きに使用したんです。今と違ってハゼは一日で1束(100匹)は釣れたし、アサリやアオヤギ、ハマグリもたくさん獲れたんです。

江戸の歴史や「深川めし」にも大変詳しく、お店のお客さまにも上手に説明なさっていますが、その原点はどこにあるのでしょうか。

 深川で生まれ育ったおふくろの影響が強いですね。一夜づけの勉強なんてよしな、よしなって言うような人でね。「寄席は勉強になるよ」が口癖でしたから。
 深川の郷土食「深川めし」も、深川の漁師が食べたのがルーツと言うけど、子どもの頃は朝飯でよく食べていましたよ。「なんだよ、またぶっかけかよ」って言うくらいね。江戸の昔には夜にお米を炊いて、冷えたご飯を朝に食べてたの。前の晩に炊いた冷や飯に温かい御付け(味噌汁)をざっとかけたのが、ぶっかけの深川めし。アサリは安くて身近な食材だったんだね。おふくろはアサリだけじゃなくて、アオヤギやハマグリも使ってましたよ。
 今のように店で深川めしを提供するようになったのは観光客が多くなったからで、それぞれの店独自のアサリ料理を総称して「深川めし」として広がったんだね。うちの店はぶっかけを出しているけど、他にも炊き込みやせいろ蒸しなどもあるね。江東区には「深川めし振興協議会」というグループがあって、そこに登録されている店だけでも25店舗はありますよ。

独立してから郷土料理が味わえる店に。

【江東 この街あの人】ふか川『一穂(いっすい)』 店主 大山 敏博さん トロをふんだんに使った「葱鮪鍋」も看板メニュー
トロをふんだんに使った「葱鮪鍋」も看板メニュー

お店の看板メニューとして「深川めし」の他に「葱鮪鍋(ねぎまなべ)」がありますが、どんな鍋なんですか。

 親父が亡くなって、すし屋『松葉鮨』は弟 夫婦に任せて、下町の味を中心にした店『一穂』として独立したんです。昔は脂身の多い鮪のトロはすしネタとして人気がなくて「まかない食」だったんです。60年も昔の話だけど、うちのおじいさんは客から注文されてもトロは絶対に出さなかったね。マグロといえば赤身、トロは家畜の餌にするようなものだと譲らなかった。トロが好んで食べられるようになったのは戦後、食べるものがない時代に安くて脂も多くて、若い人から人気に火がついたんですよ。
 「葱鮪鍋」は野菜不足の冬の鍋にぴったりで、トロの脂が野菜の旨味を引き出すんだね。シメは残りのスープで作るおじやが最高ですよ。店では鰹出汁のスープに筋身のトロを薄めに切って、野菜はネギ・豆腐・白菜。それに針生姜を散らしてね。最近は海外の雑誌にも載っちゃって人気です。

【江東 この街あの人】ふか川『一穂(いっすい)』 店主 大山 敏博さん 毎年、北海道旭川市の食の祭典「食べマルシェ」で深川めしを提供
毎年、北海道旭川市の食の祭典「食べマルシェ」で深川めしを提供

全国食のイベントで「深川めし」の広報活動もされていますが、どんな反響がありますか。

 毎年9月に開催している「旭川食べマルシェ」に、旭川市から東京を代表して深川めしを出店してほしいと要請があってね。深川めしは農林水産省の郷土料理にもされているから。出店して今年で6年目、最初は「深川めしってラーメンじゃなくてご飯が入っているんだ~」って珍しがられたけど、毎年楽しみにしてくれるリピータも増えましたよ。日本各地から約300店あまりが集まるイベントなんです。
 これがご縁で2年前からは「函館グルメサーカス」にも出店しているよ。もちろんうちの店は「ぶっかけ」だから、アサリと味噌が命なんで空輸で送ってね。野菜は地元で調達しているんです。

【江東 この街あの人】ふか川『一穂(いっすい)』 店主 大山 敏博さん 深川めしを後世に伝えたいと語る大山さん
深川めしを後世に伝えたいと語る大山さん

これからの抱負とメッセージをお願いします。

 深川めしは下町深川で食していたものだから、後世までとはいわないが何とか残していきたいね。江東区は交通の便も良くて都心まですぐだし、下町文化が所々に息づいているよね。現代と今が良い具合に融合しているのが、深川であり江東区であると思うし、ここにはなんていったって祭りもあるし。富岡八幡宮や深川不動堂は身近な存在であるしね。あえて構えてどこに行くっていうのではなく、ふらっと気兼ねなく街を歩ける。これが深川の一番良いところではないかな。ちょっと気の利いた店も多いですよ。
(取材日:2018年1月11日)

江東 この街あの人

ふか川『一穂(いっすい)』店主 大山 敏博さん

1949年生まれ。2003年に独立し「一穂」の店主に。現在は深川の郷土食「深川めし」や「葱鮪鍋」を看板メニューに郷土食を守り伝えることにも力を注ぐ。富岡八幡宮の神輿総代も務める大の祭り好き。

ふか川 一穂
東京都江東区木場2-8-8
TEL:03-3643-2255