【江東 この街あの人】『深川ワイナリー東京』醸造長 上野 浩輔さん

下町・深川に根付いた都市型ワイナリー
お料理に合うワインを追及する醸造家

料理に合ったワインを造りたい

上野さんがワイン醸造家を志したきっかけは?

 その質問をされたときは「女性にモテるためです」というのが、ワインメーカー同士の決まり文句なんですが(笑)。まあ、それは冗談として、僕の実家は普通のサラリーマンだったのですが、こどもの頃に初めて見た大人の席が親戚の集まりで、皆で楽しそうにお酒を飲む風景を見て、なんて面白いものを飲んでいるのだろうと。その中にびっくりするほど楽しくお酒を飲むおじさんがいて、すごい憧れがあったんです。
 その気持ちは成長しても変わらず、飲むだけではなく造りたいと思ったんですよね。お客様が喜んでくれる美味しいワインを造りたいと、山梨大学でワインの醸造を学びました。

【江東 この街あの人】『深川ワイナリー東京』醸造長 上野 浩輔さん 住宅街の中にある深川ワイナリー東京。ワインの醸造の他、試飲所、プライベートレストランもある
住宅街の中にある深川ワイナリー東京。ワインの醸造の他、試飲所、プライベートレストランもある

なぜ住宅街の真ん中にワイナリーをオープンしたのでしょうか?

 この場所を選んだのは社長(代表取締役中本徹)ですが、江東区には繊維、材木、ガラスという伝統的な産業があり、そこで今までにない新しいものをやってみたいと思ったそうです。また、社長自身が下町育ちなので、その良さを知っているのも理由の一つです。気軽におじいちゃんやおばあちゃんが来てくれたり、家族ぐるみでお付き合いできるのも下町の良さですよね。江戸三大祭りの一つ「深川八幡祭り」もありますし、5年後、10年後と祭りでワインを使っていただいたり、そんな思いもあったといいます。
 江東区は元気のある街だと思います。牡丹町笑栄会に加盟していますが、商店街の人たちも活動的で、皆で街を盛り上げようという気持ちが伝わってきて、私たちも頑張りたいと思っています。

【江東 この街あの人】『深川ワイナリー東京』醸造長 上野 浩輔さん テイスティングしながらワインを仕上げる上野さん(右)とスタッフ
テイスティングしながらワインを仕上げる上野さん(右)とスタッフ

深川ワイナリー東京のワインの特徴を教えてください。

 街の真ん中にあるってことが一番で、造り手との距離も近い。地方で醸造していたときは、ぶどうの品種の個性を活かした美味しいワインを造ることだけを考えていましたが、都市型ワイナリーを始めるにあたって、料理人とは切っても切れないワイン造りをすることを目標にしています。
 このワイナリーには、鮨のイベントやイタリアンのプライベートレストランもあるので、料理長に季節のメニューを試食させてもらい、料理と合うワインに仕上げています。香りと切れ味を重視し、口に入ったときになめらかで、あとはやさしくおだやかな味わいがひろがるように心掛けてます。
 ぶどうは山形、山梨、長野、北海道、青森あたりが多く、季節ごとに10~12種類入ってきます。これを「ろ過」「無ろ過」「スパークリング」の3種類に造ります。無ろ過というのは、果肉や酵母の成分を残すことで果実感が本当によく出るんです。欧米の教科書的には雑味を取り除くことでお酒らしくなるのですが、あえてこれらを残し、美味しいワインに仕上げます。

【江東 この街あの人】『深川ワイナリー東京』醸造長 上野 浩輔さん 60平米の醸造室で年間3万本を生産。予約制で見学も可能
60平米の醸造室で年間3万本を生産。予約制で見学も可能

醸造所は本当にコンパクトですが、年間何本くらい生産しているんですか?

 醸造所は60平米、試飲所を含めても90平米しかありません。現在は年間3万本ほど生産していますが、一度に仕入れるぶどうは3トンが限界ですね。ここでぶどうを圧搾し、白ワインの場合は容器に移してすぐに発酵させます。赤ワインはいったん容器に入れ、朝夕かきまぜること約10日間でお酒に変わってきます。
 スパークリングはすべて瓶内二次発酵で、後から炭酸ガスを入れないタイプなんですよ。瓶の中で泡が生まれ、そのまま果肉や酵母成分が残っていますが、その分ジュース感も強く美味しく感じていただけるのではないかと。ちょっとレアなタイプですね。
 土・日・祝日は予約制で醸造所見学ができるので、興味のある方はぜひ。また年に一度、山梨の契約農家さんの畑で収穫体験ツアーも行なっています。昨年はバス一台を貸切り、40人の方に収穫から醸造までを体験してもらい好評でした。

【江東 この街あの人】『深川ワイナリー東京』醸造長 上野 浩輔さん 醸造室を眺められる試飲所。アラカルトメニューも楽しめる
醸造室を眺められる試飲所。アラカルトメニューも楽しめる

屋上でぶどうを収穫してワイン造り

昨年から東京海洋大学と産学連携プロジェクトも行なっているそうですね。

 目の前が東京海洋大学越中島キャンパスで、うちのレストランでアルバイトをしている学生さんもいるのですが、ご縁があって昨年からワインの海中熟成についての共同研究を行なっています。ワインを海中に沈め、地上熟成との違いを研究するのが目的です。昨年6月に1カ月間海中熟成させたワインを引き揚げ、7月に赤札堂深川店3階テラスにオープンした「深川ワインガーデン」のオープニングでお披露目もしました。
 海中だと熟成が早まったようで、驚いたことに他のワインよりも味がまろやかになりました。昨年末に再び沈め、今年の5月頃には引き揚げる予定ですが、今度は大学にワイン成分分析などもお願いしようと思っています。

上野さんの醸造家にとっての喜びとは?また夢を教えてください。

醸造家にとっての一番の喜びは、やっぱり「ここまで美味しいワインができたんだ」という手応えを感じ、さらにその思いがお客様に伝わったときですね。
昨年オープンした「深川ワインガーデン」では、デラウェアやナイアガラのぶどう品種を100本ほど栽培しました。屋上の照り返しが心配でしたが、意外によく育ってくれたんですよ。ぶどうは3~4年目から収穫できるようになるので、上手に育てて、収穫できるようになったら畑にして、お客様と一緒にぶどうの栽培や収穫をするのが夢ですね。
 この取り組みを知った企業さんが、屋上緑化でぶどうを栽培したいと、声をかけていただきました。自分たちがお買い物をしている、また、仕事をしているビルの屋上でぶどうを収穫し、さらにワインが造れる。これが実現したら、ちょっと面白いことになるなと思っています。まだまだ石橋を叩く感じで進めていることですが、これはものすごい夢なので大切にしていきたいと思ってます。
(2019年3月1日取材)

『深川ワイナリー東京』醸造長 上野 浩輔さん

1972年生まれ、京都府出身。山梨大学発酵生産学科卒業後、滋賀県のワイナリーで17年、新潟にあるワイナリーコースト「カーブドッチ」で新規ワイナリーの立ち上げに携わった後、2016年から深川ワイナリー東京の醸造長に。エノログ(ワイン醸造技術管理士)、(一社)葡萄酒技術研究会ワインアドバイザー(JSA認定)。

深川ワイナリー東京
東京都江東区古石場1-4-10 高畠ビル1F
TEL.03-5809-8058
http://www.fukagawine.tokyo/
※レストラン情報等についてはサイトでご確認ください。

【江東 この街あの人】『深川ワイナリー東京』醸造長 上野 浩輔さん ナイアガラオレンジワイン(白・1本2,592円)、コンコード+マスカットベリーA(赤・1本2,300円)
ナイアガラオレンジワイン(白・1本2,592円)、コンコード+マスカットベリーA(赤・1本2,300円)