【江東 この街あの人】『佐野みそ亀戸本店』代表取締役社長 佐野 正明さん

日本人が受け継いできたお味噌の文化を伝えたい
昭和9年創業のお味噌の専門店

北海道から沖縄まで70種類のお味噌がずらり

まずはお店の歴史を教えてください。

 昭和9年6月25日に創業しました。ずっと味噌屋になりたいと修業していた祖父が、独立する時に東京中を自転車でまわったそうなんです。当時、亀戸は工場の街で、人が多く活気があったんですね。日立や三菱といった大工場があり、そこに品物を納める中小工場もたくさんあったんです。労働者の皆さんはたくさん汗をかくし、お味噌の需要が大きいのではと思い、ここに店を構えたそうです。当初は貸店舗でしたが、その後に土地を買い取り社屋を建てました。
 実は創業日は祖父と祖母の結婚記念日でもあるんですよ。午前中に店の3階で結婚式を挙げて、午後から開店したそうなんです。ですから創業記念日が結婚記念日。かなり慌ただしい1日だったでしょうね(笑)。

【江東 この街あの人】『佐野みそ亀戸本店』代表取締役社長 佐野 正明さん 店内には70種類のお味噌の他、漬物や調味料、出汁など 食卓を豊かに彩るこだわりの食材が所狭しと並ぶ。
店内には70種類のお味噌の他、漬物や調味料、出汁など 食卓を豊かに彩るこだわりの食材が所狭しと並ぶ。

当時はどんなお客様が多かったのですか?

 祖父は非常に仕事熱心で、工場のまかない、今でいう社員食堂にどんどんお味噌を納めていました。業績も良く繁盛していたと聞いています。
 そんな中、昭和20年3月10日の東京大空襲の時は、祖父は招集され不在でしたが、祖母は幼い子どもを連れて逃げまどったそうです。近くを通る貨物線の土手から社屋が焼け落ちるのを見たそうで、とても悔しかったと言っていましたね。そんな歴史もあります。
 昭和21年からはお味噌の配給所として再スタートしました。戦後は都市化が進み大工場が移転してマンションが建ち始めたことで個人のお宅が増え、今はお味噌だけでなく食卓を彩るような漬物や調味料などこだわりの食材も扱うようになりました。お味噌は北海道から沖縄まで70種類を扱っています。

お味噌は健康食品としても見直されていますが消費は増えていますか?

 ここ2~3年は消費の動きは良いのですが、実はお味噌って残念ながらここ40年間毎年わずかに消費が減り続けてきたんです。ここ数年は復調のきざしがみえていますが。お味噌の使い道の9割はお味噌汁なので、お味噌の消費が減っているっていうことは、お味噌汁を飲まなくなっているのかなと認識しているんです。
 一般の方に、お味噌汁についてアンケートを取ってみると、おおまかに言えばとても義務的な食卓のメニューになっている方が多かったんですね。「作らないとお父さんがうるさいから」とか(笑)。
 我々は世の中の人はお味噌をいろいろブレンドして、具材も工夫して楽しんでいらっしゃるという認識だったので考えをあらためましたね。そしてお味噌の魅力を広める取り組みを始めました。

お味噌の楽しみ方を広めるために独自のアイデア

それはどんな取り組みですか?

 例えば具材が野菜の時は白い味噌、魚介類やちょっとクセのある具材は赤い味噌、クセが強い具材には黒い味噌をあてるとか、また季節によっても味を変えるなど、お味噌は楽しみ方が多くて奥深い文化なんです。
 そういったことをお客様に伝えるために自社で「噌(そ)ムリエ」制度を作りました。店でお味噌の楽しみ方をお伝えする人材育成で、社内の試験に合格した店員を噌ムリエに認定していますが、けっこう難しい試験なんですよ。独自に作った170ページの教科書で学び、1~2回は不合格になる人も少なくありません。内容はうちで扱っている70種類のお味噌の特長や出汁、具材、歴史まで多岐にわたります。

噌ムリエ制度を導入してから何か変わりましたか?

 そうですね、一生懸命お味噌の楽しさを伝えてはいますが、それだけでは世の中を変えていくような手ごたえがないんですよね。食生活は習慣ですから、口で伝えるだけでは習慣までは変わらないのかなと感じています。
 そこで、実際にお味噌汁を飲んでもらって、すばらしさを体感してもらおうと始めたのが店内に設置している「味苑(あじえん)」です。実際にブレンドしたこだわりのお味噌汁とごはんを召し上がれるコーナーです。お客様の中にはお椀の蓋を開けたときに「わっ」と歓声をあげる方も多く、そういった反応を見ていると、私たちが売らなきゃいけないものは「体験」なんだと感じます。もっと楽しくてワクワクするものだということを積極的に伝えていきたいと思っています。
 お味噌は日本人が改良に改良を重ねて受け継いできた文化なので、その文化をより良いものにして、各家庭で次の世代に受け継いでいくお手伝いができたらいいなと思います。

【江東 この街あの人】『佐野みそ亀戸本店』代表取締役社長 佐野 正明さん 店内にはお味噌汁のすばらしさを体験できる「味苑」を設置。6種類のお味噌をブレンドしたお味噌汁が楽しめる。
店内にはお味噌汁のすばらしさを体験できる「味苑」を設置。6種類のお味噌をブレンドしたお味噌汁が楽しめる。

【江東 この街あの人】『佐野みそ亀戸本店』代表取締役社長 佐野 正明さん 「味苑」でいただける「具おみそ汁セット焼おむすび」1,018円。みそプリンやみそフレンチトーストなども味わえる。
「味苑」でいただける「具おみそ汁セット焼おむすび」1,018円。みそプリンやみそフレンチトーストなども味わえる。

亀戸の街のカラーは「福都心」

お味噌汁のおいしい作り方を教えていただけますか?

 お味噌汁はとても懐の深い食事で、合わない具材はないんですよ。私はトマトのお味噌汁が好きで、トマトは味がしっかりしているので黒い味噌を合わせます。ちょっと豆乳や牛乳、バターでも落としてもらうと、味が一体となってマイルドなビーフシチューのような味になるんです。
 各家庭にはメインとなるお味噌があると思うので、具材に合わせて白・赤・黒の味噌をブレンドするのがおいしく食べるコツだと思います。また、出汁によっても味が変わりますよね。カツオは上品な高級感がでますし、いりこなら少し素朴な庶民的な味になります。
 もう一つ大事なのが「吸口(すいくち)」です。山椒、あられ、ショウガ、和がらしなど、なんでも良いんです。黒コショウなんかもおすすめです。これらを仕上げに少し添えてもらうと味が締まるし見た目も良く、香りも楽しめますよ。

【江東 この街あの人】『佐野みそ亀戸本店』代表取締役社長 佐野 正明さん お味噌の味や文化を楽しんでほしいという佐野正明さん。
お味噌の味や文化を楽しんでほしいという佐野正明さん。

ぜひ試してみたいと思います。最後にこれから亀戸はどんな街になってほしいですか?

 地元の商店主や有志で「かめの会」を結成し、20年前から亀戸の街おこしをやっています。そこで亀戸の街の性格を話し合ったんですね。
 この街は地域の結束も強くあたたかい街で、お祭りがとても盛んです。ここは香取神社の氏子ですが毎年お神輿を意地でもあげるのが恒例なんですよ。歴史を紐解いていくと、亀戸は神社仏閣が多くお参りに来る場所で、浮世絵にも描かれた天神様の藤の花や亀戸梅屋敷もあり、江戸市中から日帰りで帰ってこられる、ある意味癒しの場所だったんです。名物の亀戸大根も別名「お多福大根」といい、昔から福の多い街でした。
 そこで「福」のある街にしていこう、副都心がビルの建ち並ぶ街なら、亀戸はほっとするような「福都心」と定義していこうとみんなで決めたんです。人と人同士の触れ合いがある街、それが亀戸だし、今後もそんな街のカラーを守っていきたいですね。
(2020年2月27日取材)

『佐野みそ亀戸本店』代表取締役社長 佐野 正明さん
1966年江東区亀戸出身。
佐野味噌醤油(株)代表取締役社長、一般社団法人江東区観光協会理事、江東区亀戸観光協会副会長。

佐野みそ亀戸本店
東京都江東区亀戸1-35-8
TEL:03-3685-6111
https://sanomiso.com/

【江東 この街あの人】『佐野みそ亀戸本店』代表取締役社長 佐野 正明さん