【江東 この街あの人】芝浦工業大学 建築学部教授 志村 秀明さん

まちづくりのプロフェッショナルが語る
湾岸地域のまちづくりと地域づくり

日本全国のモデルとなっている湾岸地域のまちづくり

江東区はとくに湾岸地域が急激に発展していますが、まちづくりの専門家としてはどう捉えていますか?

 私はまちづくりを実践的に行ない、新しい手法の開発や方法論をつくる研究をしていますが、まちづくりや地域づくりはまちを知るところから始まるので、調査を蓄積していって2018年に『東京湾岸地域づくり学』というタイトルで本も出しました。
 そこにも書きましたが、湾岸地域は大部分が近代以降の埋立地と新しい土地なので、東京の中でも特に歴史が浅く、伝統的なものや文化的なものが少ないと思われています。でも、実は湾岸地域は江戸・東京の近代化や発展を支えてきた土地で、未来に向けても東京の発展を支えていく重要な地域なんですね。
 例えば芝浦工業大学がある江東区豊洲は、歴史を掘り下げてみると戦前から造船所や鉄工所があり、戦後は石炭ふ頭などが造られたことで火力発電所やガス工場なども操業した、戦後の日本経済を支えたエネルギー基地だったんです。

【江東 この街あの人】芝浦工業大学 建築学部教授 志村 秀明さん 志村さんが描いた芝浦工業大学豊洲キャンパス。「スケッチはまちづくりの基本。まちをよく見ることで面白い発見がたくさんあるんですよ」と志村さん。出張の際にはスケッチブックも持参するそうだ。
志村さんが描いた芝浦工業大学豊洲キャンパス。「スケッチはまちづくりの基本。まちをよく見ることで面白い発見がたくさんあるんですよ」と志村さん。出張の際にはスケッチブックも持参するそうだ。

江東区では最近とくに有明が急激に発展していますね。

 有明には今年4月に大型商業施設がオープンする他、住民が増加していて自治会をつくるなど頑張っていらっしゃいますが、その見本となるのが豊洲でしょうね。
 これまでのコミュニティは近隣単位でした。それこそ深川地区はご近所づきあいが残っていますが、湾岸地域などはご近所の単位が違います。タワーマンションがどんどん建っている状況なので、今までのコミュニティとは違う「地域づくり」という言い方をしていますが、湾岸地域に限らずもっとグローバルな人々の関係性です。
今の世の中、インターネットもありますしグローバル化はどんどん進んでいます。ローカルでありながらもグローバルなコミュニティづくりを考える上で、モデルとなるのが日本全国の中でも湾岸地域だと思うんですね。芝浦工業大学もスーパーグローバル大学になっていて留学生はたくさんいますし、湾岸地域には外国人居住者の方も多いですから。

まちづくりはグローバル志向へ

コミュニティもグローバル志向が重要だということですか?

 そうなんです。でも、まちづくりで最も苦労するのがコミュニティで、豊洲も以前は昔ながらのクローズドでした。まちづくりの多くの研究者も言っていますが、これからはオープンなコミュニティにしないと、どんどん高齢化するし人口も減る。だから、それではいけないとずっと言い続けていました。転機となったのが「豊洲地区運河ルネサンス協議会」です。この協議会は水辺を活かしたまちづくりや地域の賑わいと魅力を創出する活動を行なっています。住民だけでなく企業や学校も参加し、オール豊洲に近いと思います。「船カフェ」や「水彩まつり」など水辺の様々なイベントを行なうことで一つになるし、自然につながりもできるじゃないですか。
 今では豊洲も変わり、とくに商店街の豊洲商友会は本当に特別だと思っていて、完全に外にオープンです。取り入れられるものはどんどん取り入れて発展しています。

【江東 この街あの人】芝浦工業大学 建築学部教授 志村 秀明さん 豊洲地区運河ルネサンス協議会が主催するイベントでは志村研究室の学生たちが船のガイドを務めた。
豊洲地区運河ルネサンス協議会が主催するイベントでは志村研究室の学生たちが船のガイドを務めた。

まちづくりは景観だけではなく、人と人とのつながりが大事なんですね。

 やはり人間ベースなんですよね。でも、人間のつながりは目に見えないものなので、今はきちんと定量化して評価するシステム化の方向に進んでいます。
例えば豊洲では現在、国交省に採択されスマートシティー構想が行なわれていて、芝浦工業大学も声をかけていただいてメンバーになっています。豊洲駅の混雑緩和やモビリティ、シェアサイクル、人々の健康をデータに蓄積するなど、世界的に行われているIOT(Internet of Things)などでデータ化することももちろん行ないます。これはもう宿命のようなもので、新しいものが入ってくるのは湾岸地域では豊洲ということになってくるんですね。
 ただ、少し怖い面もあり、データが果たしてまちを元気にするのか? 人同士のつながりを考えれば効率化することが本当に良いことなのか考えてしまいます。見えないほうがかえって良い面もありますからね。

学生たちと砂町商店街を元気に!

現在、江東区内で関わっていらっしゃるまちづくり活動はありますか?

 区内では北砂の地区計画づくりにアドバイザーとして加わっています。北砂は有名な砂町銀座商店街がある密集市街地です。他にも豊洲、深川、亀戸の他、CIGビジョン推進キャンペーンのベランダ緑化などにも関わっています。
 砂町銀座商店街には、2018年度から志村研究室として大学院生を中心に学生たちも関わっています。昭和の懐かしさが残る商店街で、コロッケ50円なんていう店もあり、学生たちも面白がっていますね。地区計画としては道路拡張や行き止まり道の解消などがテーマですが、砂町銀座商店街では道路拡張はむずかしく、私も安易に広げるべきではないと思っています。あの雑多な雰囲気が失われてしまいますからね。そのため、まずは電柱の地中化が話し合われています。

【江東 この街あの人】芝浦工業大学 建築学部教授 志村 秀明さん 講師を務めた亀戸文化センターの講座「亀戸のまちのサポーターになろう」から誕生した「かめたん」は、亀戸の名所915か所を写真と案内文で紹介。定価600円(税込)。お問い合わせは亀戸文化センターへ。TEL.03(5626)2125
講師を務めた亀戸文化センターの講座「亀戸のまちのサポーターになろう」から誕生した「かめたん」は、亀戸の名所915か所を写真と案内文で紹介。定価600円(税込)。お問い合わせは亀戸文化センターへ。TEL.03(5626)2125

今後はどのように展開していく予定ですか?

 昨年、学生たちが企画した駄菓子屋イベントを砂町銀座商店街の空き地で開催したところ、たくさんの子どもたちがやってきました。区内でも元気のある商店街ですが、最近はテナント貸しや買い物客の高齢化が目立っているんですね。
 空き店舗に拠点を作り、商店主や買い物客からアドバイスや意見をいただく場にしたら、様々な問題点が見つかりました。砂町銀座商店街の元気さを維持しながら、2020年度は空き地の活用を考えていくのが次のステップですね。
 できれば3~4年で目途をつけたいのですが、まちづくりは長く時間がかかるんです。地道な作業ですよ。これからもグローバルにつながるようなコミュニティがベースになるまちづくりを研究していきたいですね。
(2020年1月27日取材)

【江東 この街あの人】芝浦工業大学 建築学部教授 志村 秀明さん 砂町銀座商店街の空き店舗を使って行なったワークショップ
砂町銀座商店街の空き店舗を使って行なったワークショップ

芝浦工業大学 建築学部教授 志村 秀明さん
1968年中央区月島出身・在住。
専門はまちづくり、市民参加、都市計画。博士(工学)、一級建築士。
日本建築学会奨励賞(2006年度)受賞。
江東区景観審議会委員、豊洲地区運河ルネサンス協議会事務局。
主な著書は『東京湾岸地域づくり学』(鹿島出版会2018)、『景観計画の実践』(森北出版2017)他多数。

芝浦工業大学建築学部建築学科
地域デザイン研究室 志村研究室
http://www.sim.arc.shibaura-it.ac.jp/
東京都江東区豊洲3-7-5 研究棟7-Dー32
TEL.3-5859-8414(共用)

【江東 この街あの人】芝浦工業大学 建築学部教授 志村 秀明さん 芝浦工業大学のある豊洲をはじめ深川、亀戸、砂町など、江東区内の数多くのまちづくりをサポートする志村秀明さん。
芝浦工業大学のある豊洲をはじめ深川、亀戸、砂町など、江東区内の数多くのまちづくりをサポートする志村秀明さん。